開発ストーリー

Jシステム

打音点検に替わる次世代赤外線画像判定支援システム

開発期間:2002年(平成14年)~2021年(令和3年)

Jシステムはコンクリート内部の損傷を赤外線サーモグラフィ法で検出する技術

Jシステムとはコンクリート構造物の浮きや剥離を赤外線法より検出できる技術です。
EM(S)装置(貼付型環境測定装置)・Jモニター(調査支援モニター)・Jソフト(損傷判定支援ソフト)の3つの技術で構成されています。
橋梁のコンクリートの点検では、最大約90m離れた地点から赤外線カメラで撮影し、コンクリートと内部にできた空洞との温度差により、浮きや剥離を高精度、かつ定量的に抽出します。
たとえば、外気に対してコンクリートの温度が高い場合、熱は温度の高いコンクリートから温度の低い外気に向かって移動します。コンクリートの中に空洞があると、熱の移動が遮断されて周囲のコンクリートに比べて微細な温度差が生まれます。赤外線サーモグラフィ法は、その熱伝導の相違による温度差を赤外線カメラで感知し、画像判定する仕組みです。
EM(S)装置を調査対象の橋梁の代表的な地点に約1日前に設置し、コンクリートにできる空洞を擬似的に作成します。コンクリート内部の空洞により温度差が発生する環境にあるかどうか調査前に確認することができます。
Jモニターは、赤外線画像をリアルタイムで温度差を赤・黄・青の3段階で強調表示して損傷の見逃しを防止します。Jソフトは、Jモニターの画像データを自動解析し、損傷レベルを3段階で定量評価できることが特徴です。
これらJシステムの開発により、従来の赤外線法では見逃していた損傷箇所を100%検出できるようになりました。


EM(S)装置

Jモニター(調査支援モニター)

Jソフト(損傷判定支援ソフト)

開発に至った経緯

これまでも赤外線サーモグラフィ法は、効率的な点検技術して、外壁診断などに用いられてきました。赤外線サーモグラフィ法ではコンクリートと空洞の温度差を感知して画像判定するため、その温度差が顕著に現れる時間帯に調査を行う必要があります。従来では、調査には日較差7℃以上という気象条件が目安として設けられていましたが、調査可否の判定は明確ではありませんでした。また、外壁診断などで使われる汎用的な赤外線カメラ画像では微細な温度変化を検出できず、判定には熟練技術を要し個人差があるという課題もありました。
これらの課題をクリアするため、調査環境の定量的な判断と、赤外線カメラ画像の定量的な分析の実現を目的として開発されたのがJシステムです。
開発当初はまだ問題視されていませんでしたが、10年、20年後には高速道路の老朽化が進むこと、人口減少により点検者の確保が困難なことを開発担当者は見据えていました。
将来的に高速道路の点検を支援する技術を確立したいと考えていたのです。

開発の工夫や苦労

赤外線カメラの調査を体系的に整理

まずは外壁診断などで用いられている非冷却の赤外線カメラで調査することからスタートしました。
日較差7℃という条件に則り、実際の構造物の損傷を検出できるか赤外線カメラを用いてテストを行いましたが、損傷箇所をまったく見つけられませんでした。その原因を特定するため様々な損傷タイプについてFEM解析(※1)を行い、損傷の試験体を作成し、様々な赤外線カメラで撮影するという基礎研究を積み重ねました。これらの検討によりコンクリート内部の損傷を検出するのに必要な赤外線カメラの性能や、調査が実施可能な環境条件などを明らかに出来ましたが、これまで、体系的に研究されていなかった赤外線調査技術の確立に苦労しました。

赤外線画像を自動解析できるように

基礎研究の中で、ある環境下ではコンクリートと損傷箇所に明確に温度差が生まれることが分かりました。しかし、その温度差の表示方法や使いやすいシステムを実現することが大きな壁でした。当時は、赤外線画像から温度差が出ていそうな箇所を人間が目視で見つけて部分的に解析することで、損傷があるかないかを判断していました。それでは手間もかかるし、根本的な見逃し防止につながりません。Jシステムでは赤外線画像に対して画像処理を行い、損傷を自動解析できるようにしたことが大きな特徴です。
画像処理を行うアルゴリズム(計算手順)や解析手法には新規性があります。Jシステムは国土交通省の準推奨技術(平成29年度 NETIS登録番号 SK-110019-VE)に登録され、他社が真似できない唯一の技術になっています。

※1 FEM解析(Finite Element Method)
複雑な形状や性質をもつ物体を微小な要素に分割することで近似値としてとらえ、全体の動作を予測する解析手法。構造力学や流体力学などの分野で用いられています。

今後の展望

点検データをもとに精度を高める

当社は、自社開発の製品を現場の点検で使用することにより、リアルなデータを得られるという強みがあります。その膨大なデータをもとに新たな課題にも対応できるよう常に製品を改善しています。点検を積み重ねることで、調査の精度を高めています。
また、最新のテクノロジーにもアンテナを張り、製品のバージョンアップを行っています。
Jシステムは、アメリカの橋梁のコンクリート舗装の剥離調査や、成田空港の滑走路の剥離調査にも活用されています。開発には終わりはありません。理想を高く持ち、それを目指して日々挑戦しています。

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