熱でタイルの接着剤を軟化させる画期的なアイデア
トンネル内装タイル加熱剥離装置(HRT)とはタイルの表面を加熱することで接着剤を軟化し、剥がれやすくする装置です。
高速道路のトンネルには、照明の明るさを保つために側面にタイルを貼っています。コンクリートのままでは色が暗いこと、またコンクリート内部にほこりが溜まりやすいことが理由です。
横82cm×縦95cmの板状の遠赤外線ヒーター部分をタイル面に当てて、2~3分加熱した後、ケレン棒といわれる金属製のヘラをタイルの背面に差し込むと、タイルを簡単に剥がすことができます。
遠赤外線ヒーターの表面温度は450~600℃まで加熱され、タイル表面度は200~300℃に上がります。タイルの下のコンクリートの表面温度は約100℃になりますが、電線や通信ケーブルが設置されたコンクリート裏面ではわずかに1℃上昇する程度に抑えられています。タイルが剥がれやすく、かつ電線や通信ケーブルの安全性が保たれる最適な温度帯を実験により導き出しました。
樹脂系、モルタル系の両方の接着剤に対応することができます。
現在は照明の性能が上がったことやタイル以外の材質も増えたことから、タイルから塗装に切り替えるトンネルも増えてきました。また、25~30年を経たトンネルのメンテナンス時にタイルを剥がす機会も増えています。
開発に至った経緯
現場から上がった作業環境の改善
トンネル内装タイル加熱剥離装置の開発前は、電動のチッパーを使って1枚1枚をバリバリと剥がしていました。タイルが削られるために粉じんがひどく、作業員の働く環境も悪いものでした。現場から負担を軽減してほしいとの要望が上がり開発がスタートしました。
最初はバックホウのような機械で物理的に剥がそうと考えましたがうまく剥離できませんでした。大掛かりな工事になってしまうことも課題でした。
そこで発想を転換し、電熱線や投光器でタイルの接着剤を温めてみたところ、うまく剥がれたので、タイルを全面的に温める方法を検討。アスファルト舗装の補修に使う道路舗装機械にヒントを得て、地面に平行している電熱線を垂直に立てるように改良しました。
開発担当者、現場の作業員、道路事務所でワーキンググループを立ち上げ、何度も検討会を開催し、現場で試行を重ねて、現場の声を製品に反映しました。
開発の工夫や苦労
操作性と効率化を高めて作業面積が3倍アップ
製品化の上で大きく4点の工夫をしました。
1点目は飛散防止パネルをトンネル内装タイル加熱剥離装置と一体化したことです。
工事は片側車線のみを規制して、一般車両を通しながら行います。タイルの飛散を防止するために、以前は一般車両が走行する路線と工事路線の境に手作業で飛散防止パネルを設置・撤去していました。その飛散防止パネルを装置に直接固定することで、常にパネルを広げられるようになりました。工事場所の移動にあわせてパネルを移動する必要もなくなり、作業員は7人から5人に削減することができました。
2点目は、装置のサイズです。
リース会社で借りられるパワーゲート(テールゲート昇降装置)付きのトラックで運搬できるサイズに収めました。運搬しやすさが活用しやすさにつながっています。
3点目は、動作を単純化して操作しやすくしたことです。
本体は台車のような形状でレバーを握るとタイルに平行に進み、レバーを離すとブレーキが掛かります。誰もが扱いやすいことで、安全も確保しやすくなりました。
4点目は、遠赤外線ヒーターの効率化です。
遠赤外線ヒーターの前を風が抜けると熱効率が下がり、タイルが温まるまで時間が掛かってしまいます。遠赤外線ヒーターの周囲に風よけの羽を設置して、効率的に加熱できるようにしました。燃料にはプロパンガスを使用しますが、1日(5時間)の作業で35kgしか使用しない程、熱効率を高めています。
トンネル内装タイル加熱剥離装置の開発により、従来工法と比較すると、同一時間内の作業面積は3倍にアップし、作業環境も大きく改善されました。タイルの撤去に悩む道路管理会社は多く、またこのような製品がこれまで無かったために、全国から問い合わせがきています。
今後の展望
トンネル上部に適応する2号機を開発
トンネル内装タイル加熱剥離装置の2号機を2021年秋の完成を目指して開発しています。
2020年に完成した1号機は、走行車線側の監査路と呼ばれる高さ90cmの壁面のタイルの剥離を目的に開発しました。
一方で追い越し車線側には高さ2.5mの位置までタイルが貼られています。
遠赤外線ヒーターでタイルを加熱する基本構造は踏襲し、高い位置での作業もできるようにトラックに載せて使えるように改造しています。1号機では作業員は地面に立って作業を行いますが、2号機は作業員も装置に乗り、上部で作業をします。そのため足場の確保も課題の一つです。
1号機と同様に、万能性が高い装置になるように現場と連携しながら進めています。